コブラよりもやばいでござる
「お父さーん!」
2階で仕事をしていると、庭で遊んでいた長女が呼んだ。
窓から顔を出して、
「んー、どうしたー?」
「ヘビがいたー! こんな位だったよ~!」
と、両手を広げてみせた。5歳の子供の一尋である、広げても1メートルかそこらしかない。
「おー、そうかー。咬み咬みされないように気をつけろー。で、どんなヘビだった~?」
まあヘビなんぞしょっちゅう見かけるし、そもそも1メートルを超えるゴールデントビヘビ(このヘビとしてはかなりでかい)が1匹、1階のトイレ界隈に住み着いていて、完全な抜け殻を定期的に提供してくれている。
これまで5~6種類のヘビを見かけているが、庭で見かけたものはどれも無毒だったし、長女も危険はよく理解していて、興味はあっても近付きはしないので、結構安心して放っている。
しかしだ。今回は娘の
「ええとねー、White and Black の縞々だったー!」
の一言で、背筋が凍りついた。(長女はインターナショナルスクールに通っているので、普段の会話にも英語が混じる)「なっ・・・マジか!!! ちょっと2階に来い! 早く!」
トコトコとやって来た長女に、どんな模様だったか、絵を描き、写真を見せて確認した。・・・良かった、違った・・・なーんだ、脅かしやがって!
幸運にも、恐れた奴とは縞の向きが違った。タイには数多くの毒ヘビがいて、代表格はご存知コブラ君である。
コブラは「田んぼのヘビ」で田畑に多く、恐ろしい存在ではあるが、別に珍しい存在ではない。
しかし、人間が生活する場にこうした毒ヘビが現れると、こっちの人はみんなで必死で捕まえる。
そりゃそうだ、うっかり咬まれたら命に関わるのだから、笑って見逃すわけにはいかないわけだ、こうなると一種の公共事業みたいなものである。
コブラの毒は、ご存知の通り非常に強い。咬まれて手当てが遅れると、本当に黄泉路を往くことになる。
しかしだ、別にコブラが一番ではないんですよ奥さん。
タイにはコブラより明らかにやばい毒持ちが3種類いて、そいつらと絡む位なら、私はコブラに咬まれて自分で運転して病院に行く方を選ぶ。
その1:キングコブラ
まあコブラといえばこいつもコブラだ・・・が、普通のコブラ(タイコブラ)は1メートル程度、せいぜい1メートル半なのに対して、キングコブラは普通に3メートル、稀に4メートル、極稀に5メートル超となる。3メートル級でも、鎌首を持ち上げると大人の男の背に近い高さになる。
大きな固体に上から見下ろされながら「シャアアアアア!!」とかやられたら、怖いどころの騒ぎじゃない。泣く。
毒自体は、実は同量だと普通のコブラの方が強いのだが、なんせでかいだけに毒の量が桁違いで、結果的に危険度は普通のコブラを遥かに上回る。
もし咬まれたら・・・まあ絶対に助からないので、大至急エロ本とかHDDのエロ関係とかを処分した方がいい。
残された人生はあと僅かだ、とにかく急げ。
がしかし、実際には咬まれた話など全く聞かない。
というのは、キングコブラはスネークイーター、つまり基本「蛇食い」のヘビなので、基本的には、餌となる他のヘビが豊富な深いジャングル等にしかおらず、滅多に人と遭遇することはないというわけだ。
加えて、攻撃の前には鎌首を広げ、派手に威嚇してくれる親切設計なので、まあ普通はそれで逃げるでしょ。
キング氏としても、飲み込めもしない人間追いかけて咬んでもメリット無いし。
とまあ、人の生活範囲での遭遇率は皆無に等しいという点から考えてみると、そんなに危険なヘビではないのかも。
その2:アマガサヘビ
今回勘違いした、白と黒の縞々君。黄色と黒の「キイロアマガサ」というのもいるが、白黒も黄黒も危険度は同じと考えていい。
キイロアマガサは「マルオアマガサ」とも呼ばれるが、日本にいない生物の和名がどうこう言うなんぞナンセンスなのでどうでもいい。
このアマガサ君達、首は広がらないが、コブラ科のヘビであり、そして2つの点でコブラより明確にやばい。
まず1つは、単純に毒がコブラよりも強い。これに咬まれるならコブラに咬まれとけ、だいぶマシだ。
2つめは、コブラのように派手に威嚇などせず、突然咬んでくること。
コブラならまず威嚇してくるので、それで気付き、事なきを得る場合が多いが、アマガサは咬まれてから気付くケースが多い。
毒は強力な神経毒で、咬まれてもあまり痛みはないものの、短時間で作用し、全身の筋肉を麻痺させる。
咬まれたが痛くないし大丈夫だろう、と悠長に構えていたら、しばらくしてから急に体が動かなくなり、そのまま呼吸も停止して死亡、というケースが多いようだ。
なお、咬まれた場合の死亡率は・・・まあ2回咬まれたら、たぶん1回は助かるんじゃないかな。
その3:ラッセルクサリヘビ
はっきり言おう、私はこいつが一番怖い。ヘビに咬まれて死ぬと決まっていても、こいつだけは冗談抜きで勘弁して欲しい、可能であればアマガサ君辺りでお願いしたい。
英語名は「Russell Chain Viper」、その名の通りマムシの近縁である。つまり毒は基本的に出血毒。
しかもこいつの出血毒はただでさえ超強力な上に、神経毒とのカクテルになっていて、毒の性質(タチ)はとにかく最悪である。
神経毒の場合、名前の通り神経細胞に作用し、特に中枢神経を侵されると呼吸が停止したりして致命的なので、全身に毒が回らないようにしなければならない。
つまり手足なら、心臓に近い側を縛り、毒が回らないようにするわけだ。
逆に出血毒の場合、咬まれた場所から組織を破壊していくので、神経毒のように縛ってしまうと、体に毒が回らない分、傷口周辺に毒が滞留し、結果的にその部分の組織が壊死してしまって手足切断等になりかねないので、全身に毒を回し、希釈するのがセオリーである。
とにかく、何でも縛るのは愚かな行動。正しい判断をするためには、相手を知っていることが重要なわけである。
さて、このラッセル君だが、出血毒なので縛れば縛った先の手足がアウト、かといって全身に回すにも、神経毒もブレンドされているのだから、対処が非常に難しいのはお解り頂けるだろう。
そもそも出血毒が、それだけで死ねるくらい強力で、全身に回れば回ったで、最終的に死なずにすんだとしても、体中の粘膜、内臓等からも出血し、何日もの間、苦しみのた打ち回ることになる。(+神経毒、が現実)
つまり、どう転んでも生き地獄。もうね、どうしろと。
多少の気休めとしては、咬まれた場合の死亡率自体は、アマガサ君ほどではない。
しかしもちろん助からない場合も多々ある上に、運良く助かったとしても、結果として四肢切断に至ったり、組織が破壊されたことによる後遺症が残る可能性が相当に高い。
とにかく、こいつは色々と嫌過ぎ。
2010/07/14
* 参考ワード : コブラ キングコブラ アマガサヘビ ラッセルクサリヘビ 毒蛇